2-10 軍団殺し
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「どうしてまた、あんな難儀なルートを選んだのよ? ヤケにでもなってたの?」
「直線距離だと一番近いから。求法院に近づいたあたりで大分外れちゃったけど」
アルが事もなげに言った。
「それはそうだけど…」
リアは絶句した。
深い森をはじめとする求法院を取り巻く環境は天然の城塞だ。中でも軍団殺しの別名を持つ北ルートは起伏に富んだ道筋だった。大陸を横断する長大な河が数々の渓谷を切り刻み、登山装備を必要とするほどの山脈が幾重にも連なっている。地図の上では海岸べりからの最短距離を示していても実態は最悪の行程だった。通常は真っ先に外すルートだ。
そこまで考えて、リアはアルの力に思い当たった。
なるほど。アルの相転儀なら、むしろそういう地形が有利に働くのか。
浮かんだ疑問を口にした。
「あなたの力は夜は目立つわよね? 森の生物への対処はどうしたの?」
「避けたよ。ド・グルに追われた時も逃げて済ませた。そのせいでルートから外れちゃったんだけどね」
ド・グルは集団で行動する肉食の四足獣だ。凶暴で、魔族が餌食にされた話も
多数聞く。俊敏な生き物から逃げ切った事実はアルの能力を示してもいた。