2-6 穿刺体
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「よく似合ってるわ」
褒めるとアルがはにかんだ笑顔を見せた。お世辞ではなく、機能的な服装はアルの外見とよくマッチしていた。
それとなく着用に不備がないか見ているとアルが問うた。
「リアは着替えないの?」
「何? 興味ある?」
「そういう意味じゃなくて!」
アルが顔を赤らめた。リアは喉の奥で柔らかく笑った。
「ごめんなさい。あたしが着替えないのは理由があるの」
リアは、ドアに近い壁際に置いてあった小さな台に近づいた。隣には二人分のロッカーがある。台の上には丸い窪みを穿ったトレーがあり、指先で支えられるほどの大きさの金属球が九つ置かれていた。中央の一つを手に取って振り向いた。
「あたしの相転儀は物質を媒介にして、増幅、拡大、再構築する」
リアは体の横に手を伸ばすと金属球を手放した。床に落下すると思われた金属球は空中で形を変え、見えない手で握りつぶされたかのように鋭いくびれを作った。歪な金属の塊は明瞭な線を形作るのと同時に巨大化した。人間大に拡大した金属の集合体は床に足を着けた時には明確な人型をしていた。黒く先鋭な外観を持つ人型の物体が一つ、二人の前に出現していた。
「あたしの穿刺体。ヴァン・キ・ラーゴと呼んでるわ。あなたの相手はこの子がする」
リアはアルを鋭く見つめた。
穿刺体は相転儀によって作られ、作成者の意図に従って動く擬似生命体だ。作成者によって大きさや形状、
持っている性質も異なる。リアの穿刺体は遠隔操作が可能でありながら擬似人格を合わせ持ち、高度な思考能力さえ備える。作成者であるリアがいなくても単独で行動できる優れものだった。