1-12 アルとドロスの融和
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
誇り高き魔族は滅多なことでは膝を屈しない。女性種に男性種が敬意を払う場合や公式な場所で立場が上の者に謙る場合など、特殊な機会に限られる。謝罪のためとはいえ、ドロスの取った行動は極めて異例だった。
リアは眉根を寄せてドロスを見つめた。
気に食わない人物ではあっても、ここまで礼を尽くされては無碍にもできない。赦免することにした。
「謝罪を受け入れよう、ドロス・ゴズン」
厳かに言い、左の手の平をドロスに向けながら掲げた。こうした場合の魔族の正式な作法だった。
魔族の社会では赦しを与えた事柄については、以降、双方が遺恨とせず持ち出さないのが通例だった。闘争の絶えない魔界ならではの知恵だった。
「ありがたい」
ドロスが顔を上げて破顔した。跪いたままアルに対して体の向きを変える。
「アルカシャ殿も」
「いいよいいよ。ぼくはいいから」
頭を下げようとするドロスに、アルが慌て気味に両手を振った。
「では、お許しいただけるか?」
「うん」
アルが頷き、謝罪の儀式は終了した。ドロスが立ち上がる。
「あの時は調制士が決まらずに気が立っていた。すまなかった」
ドロスが左手を差し出した。わずかに逡巡してアルが応じた。
左手での握手は魔族の融和の証だった。諍いの後の仲直りや格別に仲の良い相手との挨拶など、特別な意味合いを含む作法だ。傍で眺めるリアも止めなかった。