1-5 侵入者
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
リアが問いを胸にレガートと見つめ合っていると広間が騒がしくなった。
「?」
二人は同時に下へと視線を移した。
騒ぎの元は広間に通じる廊下を進んできているようだった。複数の短い悲鳴に混じって蛮声が聞こえた。廊下を踏み鳴らす重い音と一緒に近づいてくる。少年の入ってきた入口のちょうど反対側、左右の宿泊棟とつながる廊下の扉が大音響とともに押し開かれ、巨大な人影が現れた。
「今頃来やがったヤツってのはどいつだっ!!」
人影は野太い声で呼ばわりながら広間に侵入した。巨躯を運ぶ荒い足取りは人さえ踏み潰しそうだった。扉の付近にいた数名の胞奇子や調制士が狼狽を示して後退する。
人影は見るからに機嫌が悪そうだった。伸ばし放題の暴れているような赤茶けた髪は背中まであり、もみあげとつながった顎髭を胸元まで伸ばした風貌は粗暴でいかつい。荒い眉毛の下の目が眼光鋭く前を睨んでいた。突き出た額と骨ばった鼻筋は褐色の肌のせいもあって岩を削り出したような印象だった。
男は上体に黄土色のシャツを羽織っていた。ボタンを留めていないので胸毛を茂らせた上半身が剥き出しだった。鍛えられた胸の筋肉は分厚く、丸みのある腹部にも張りがあった。腕まくりした袖から筋肉の盛り上がった腕がのぞいている。肌の露出を厭わないのはよほど力に自信があるか、物事に頓着しないほど粗野なのかどちらかだろう。
下は生成りのズボンに裸足だ。巨体にもかかわらずダブついている。山刀を挟んだ革のベルトが肩から脇にかけて斜めにかかっていた。重なってかけているのは緋色の帯だ。本来ならどちらも腰に帯同するものなので、慌てて仕度をした様子がうかがえた。
到達者の証である緋色の帯は視認と同時に、求法院に張り巡らされた相転儀のフィールドの中で異物と判断されないよう信号を発する機能を持つ。胞奇子と調制士の着る制服も同じ役割を果たし、自室以外で着用を怠ると侵入者として排除される仕組みだった。帯は制服ができるまでの仮の装備だ。