1-10 ファルネア・エーティエット
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「少し時間をいただけるかな? アルカシャ・クルグ」
横に移動し、椅子の列を抜けた二人に声がかかった。椅子と壁の間にある広い空間に立ち止まったところだった。周囲では人員が片づけのために動き始めている。
二人が目を向けるとドロスがいた。横に調制士がつき従っている。
ドロスは柔和な笑みを浮かべていた。昨日とはまるで風貌が違う。長い髪はそのままながらも櫛が通っていたし、顎鬚を剃っているのが何より大きい。むさくるしさがなくなって見違えるほど整っている。撒き散らしていた違和感も求法院の制服を得たことで減った。巨体が放つ威圧感がなくならないのはどうにもなるまい。
リアはドロスの横にいる調制士に目を向けた。一歩引くようにして控えている。
この娘は確か…。ファルネア・エーティエット。
記憶をまさぐって名を思い出した。
ファルネアは存在感の薄い女性種だった。今回選抜された調制士の中にあってリア以外で赤い毛をした唯一の人物なので覚えていた。
ファルネアの髪はリアよりも色味が薄く、むしろピンク色に近い。形の良い頭を包み込むように肩まで伸び、肩口で外に向けてカールしている。おとなしげな顔立ちや線の細い体つきは可憐と表現できるほどで、無骨なドロスとは共通点がなかった。体の脇につけた左腕を右手で押さえた姿で立っている。