1-5 千人に一人
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
院長は演壇の上に立つと椅子に座る面々を緩やかに見渡した後、口を開いた。
「貴公らの列席にまずは祝福を」
院長の声が広間の空気を震わせた。低く、幅のある声は広い空間を埋めるに十分な力がこもっていた。
「森の試練を乗り越えた者は調制士と互いにパートナーと認め合い、胞奇子となった。ここに到るまででも十分に困難な道のりだ。此度の王選びで胞奇子の称号を得られた者は千人に一人もいない」
広間の空気がわずかに揺らいだ。
リアは隣に座るアルに視線を振り向けた。
…千人に一人、以上の逸材か。
誇らしい気持ちが湧いた。院長が口にした数字は森の試練に挑んだ人間に限った話だ。試練に挑む資格さえ得られなかった者はさらに多い。王選びに参加するには各地で行なわれるトーナメントを勝ち上がるか、村や町を預かる有力者の推挙が最低でも必要だ。アルの場合は追放にも等しい仕打ちと引き換えだったが。
リアは演壇に視線を戻し、院長の話に再び意識を向けた。大事なのはアルの過去ではない。今とこれからだった。