1-4 求法院院長
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「静粛に」
演壇の後ろに並ぶ人間の一人が立ち上がり、手を掲げて場を静めた。向かって一番右端の人物だ。
長身で頬のこけた壮年の男性種だった。ほつれたような黒い髪の毛を中央で分け、襟足を伸ばしている。身にまとっているのはグレーの生地にトーンを変えた縁取りを施した管理者用の制服だった。裾が長く、ダブルブレストになった重厚な作りだ。スカーフの色は深みのある青でシャツの色は白い。肩章が上級の地位を示していた。進行役のようだった。
男の一言で広間のざわめきが消えた。予期された事柄が若き魔族たちの浮ついた気分よりも勝っていた。
「求法院院長、セダーグ・ダズニウよりお言葉がある。本日の式典における唯一の題目である。胞奇子、調制士ともに厳粛に耳を傾けられたい」
手を下げると男は椅子に座った。入れ替わるように向かって左端の人物が立ち上がった。
白髪の小男だった。アルよりは背丈が高いが、あまり変わらない。後ろに流した白髪や深い皺の刻まれた容貌がなければ少年のように見える。着ている服自体は進行役の男と同じだ。肩章の外見の差に地位が反映していた。
院長は落ち着いた足取りで演壇を登った。雰囲気が他の誰とも違う、とリアは思った。
受ける感じがこれまでに出会った文礼員とも前に座る人間たちとも異なっていた。どちらかというと警護員のそれに近い。名に覚えがなくとも魔界の主要な施設の長だ。相応の力の持ち主なのだと思われた。そもそも、闘争と隣り合わせの生を送る魔族が長く生き残っていること自体、稀な出来事だった。