1-2 最初の死者
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
…意味があるとすれば、あいつぐらいね。
リアは最後部中央に陣取るドロスにわずかに視線を振り向けた。
明らかに特注と分かる大きな椅子に座ったドロスがいた。求法院の制服で身なりを整え、腕組みをして座っている。頭髪も髪先を切って整え、むさ苦しかった髭も剃っていた。丸みのある頬が外に出て印象が随分穏やかになっていた。あれからドロスも、危惧していた調制士を見つけたようだった。左隣には標準的な体格の女性種が座っていた。ドロスの体躯のせいでやたらと不釣合いに見える。このペアだけは胞奇子の体で視界を遮らないよう配慮され、後ろに配置されたと推測できた。
ま、妥当よね。
リアは思った。
気配を察したのか、右隣にいるアルが問いかけてきた。
「何かあったの?」
「ううん。別に」
視線を戻し、リアは平静に否定した。ドロスとは昨日悶着を起こしたばかりだ。ここで名前を出すのは控えておくのが得策だろう。
それに、心にかかる事柄も一つあった。早々の死者の発生だ。今朝、手紙の形式で胞奇子に一人欠員が出たと知らせが来ていた。知らせがあるのはパートナーを決める段階までであり、対象は調制士だ。情報の統制もあって誰が何を原因として死に到ったのかは伏せられていた。もしかすると、調制士をめぐって紛争が生じ、ドロスと敵対した者がいたのかもしれなかった。意図的にアルには伝えていないのだ。用心は必要だった。
…それにしても、これから王選びが正式に開始される始まりの時に死者の知らせとは。実に『血の一年』らしいことだわ。
皮肉に口元を歪めてリアは笑い、すぐに思考を切り替えるとアルに声をかけた。