1-1 宣始式
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
宣始式は壮観な光景とともに始まった。
胞奇子と調制士のペア六十名と、それら王選びに参加する者を遥かに上回る数のスタッフが求法院の大広間に集っていた。密やかなざわめきが空気を満たしていた。
普段は何もない空間の前部には臨時の演壇と演説台が設置されていた。演壇の後ろには幾人かの人物が椅子に座って控えている。求法院を運営する人員の中でも重要な位置を占める者たちだった。
演壇から少し離れた場所で、胞奇子と調制士が二人一組の形で椅子に腰掛けて並んでいた。列は間隔を置いて横に五、縦に六だ。華美な装飾を抱いた椅子は肘休めのついた立派な造りをしていた。準備のための苦労がしのばれた。
二組の椅子が形作る列の両側には警護員が並んでいた。列から離れて壁際に陣取っている。目つきが鋭く、剣呑な気配をまとう人間が列を成し、式典の主役たちの脇を固める様子は異様な光景だった。棟内に限らず、警護員たちはトラブル発生の際の仲裁の役目を与えられていた。魔王を目指すほどの人物ともなると凶悪な魔族の中でもさらに危険だ。数が集えば些細なきっかけで争い事が発生し、死人さえ出かねない。警戒の対象となっているのは式典の妨害でも外部から迫る危険でもなく、主役らそのものだった。
式典の主役である胞奇子や調制士たちの後ろにも人の列があった。文礼員を始めとする求法院運営のためのスタッフだ。立ち姿での参列にもかかわらず、大広間の残りの空間を埋め尽くしている。その様子は、王選びの開催場所である求法院が数多くの人間によって運営されている事実を示していた。
そうした中、アルとリアは左から二番目の列の前列四番目の場所に座っていた。大広間に着いてすぐ文礼員に案内された場所だった。座る位置はあらかじめ求法院側で決められており、どこに座るかに特別な意味合いは無いように思われた。