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魔王になるには?  作者: 水原慎
第一章 邂逅
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1-4 足りないもの

長文なので分割してアップしてあります。

枝番のあるものは一つの文章です。

サブタイトルは便宜上付与しました。

 リアは鼻から息を洩らした。

「分からないなら、いいわ」

 レガートの感想に軽い失望を感じていた。

 目を合わせた時に見た少年の顔は薄汚れていても傷がなかった。少なくとも離れていても分かるほどの大きな外傷はない。求法院を取り巻く森は凶暴な生物の巣窟だ。森を抜けることができたとしても無傷でとなると至難の業だった。相転儀による治療を受けても傷を負った痕跡は残る。ならば、傷のない理由は二つしかなかった。襲い来る外敵を無傷で撃退できるほどの手練か、さもなければ何らかの手段で攻撃を回避できる高度な能力の持ち主ということだ。

 その点で言えば、レガートも同じだった。求法院に到着した時も今と同じように涼しい顔をしていた。体には傷一つなく、リアはその理由を知っていた。

 レガートは自分と並ぶかもしれない相手を目にしながら資質に気づいていなかった。レガートの悪い癖だ。他者の性質を歪みなく見ることができない。なまじ能力に自信を持つがゆえに容易に相手を見下すのだ。何かを過小に、あるいは過大に評価するのも対象を正確に把握していないという意味では同じだ。そして、対象を正確に把握できない者は判断を誤る。正しい判断を下せない者が魔王になれるとはリアには思えなかった。

 レガートの癖は己の目を自身で曇らせる愚かな所業でしかないのだが、過剰な自信で満たされたレガートは忠告を聞かない。それどころか、忠告した者を目がないと言って逆に見下しさえするのだ。以前は諭していたリアも今では何も言う気にならなくなってしまった。

 …こういうところも嫌なのよね。

 リアは胸の裡に暗い陰が差すのを覚えた。

 レガートは異性種として好ましい性質を持っている。幼い時からのつき合いで互いへの理解も深い。だが、だからといって全てを受け入れているわけではなかった。

 最近、特に気になっているのがレガートの関心の持ち方だった。二人とも幼いままではなくなったということだろう。時にふと、粘りつくような視線を感じた。女性種のリアにとって決して心地よい類いの関心ではなかった。

 …ま、あたしが女性種として魅力的なのが悪いのよね。

 強がりにも似た結論を導き、リアは心の陰を振り払った。 

 レガートと過ごした求法院での日々は、胞奇子と調制士が互いにパートナーを選びあう一週間と重なり合っていた。その間、二人とも別の異性種と積極的に関わろうとはしていない。リアの理由は明白だった。レガート以上の胞奇子が見つかるとは思えなかったからだ。

 それほどにレガートの資質は優れていた。確かにレガートには見過ごせない欠点もある。欠点を知ってなお、リアは他の相手を探す気になれなかった。それに、欠点があるなら矯正するだけだとも思っていた。調制士としての役目でもある。

 二人は一緒にいる機会が多かっただけで恋仲だったわけではないし、求法院に来ることになっても何の約束もしていなかった。だが、このまま互いにパートナーが見つからなければ、時間切れでペアを組む成り行きになるだろう。レガートもそのつもりだとリアは考えていた。初日に到着した時点で一度申し入れは受けている。

 リアは改めてテーブルの向こう側にいるレガートの顔を見つめた。

 何だ? 一体、何が足りない?

 七日の間、繰り返した自問に響き返す答えはなかった。

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