3-22 あたしはあなたの味方
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
深く、リアは息を吐いた。
こんな人間がどうすれば魔王になれるというのか。
リアは、アルの脆弱な生活環境以上の難題を抱えたと思った。
「…リア?」
傍らでアルの声がした。
リアが視線を向けると不安げな表情をしたアルが覗き込むようにして見ていた。リアは無理矢理に笑顔を作った。
「ごめんなさい。…少し気分がすぐれないの。儀式の影響かもね。アルは平気?」
首を頷かせるアルにリアは笑顔を保って言った。
「今日はここまでにしてもいい? 明日は宣始式だし」
宣始式は、胞奇子と調制士がパートナーを選ぶ期間の後に行なわれる節目の行事だ。王選びの真の始まりを告げるイベントだった。王選びに参加する三十組のペアと求法院のスタッフ全てが大広間に集う。ただし、内容は求法院を統べる院長の訓話だけだ。院長の名も姿も、あらかじめレクチャーを受けたリアも知らなかった。
「構わないよ」
「ありがとう。明日の朝は迎えに行くから一緒に行きましょう。出て行く時は一人でも大丈夫だけど、道順は分かる?」
「覚えてる」
返事を聞き、リアは長椅子に置いておいた荷物を手に取ると渡した。立ち上がってドアに向かうアルの後ろに付き従うようにして歩く。部屋を渡る間、どちらも無言だった。
ドアまで辿り着いたアルはそのまま出て行こうとした。
「アル」
リアに名を呼ばれ、アルが振り返った。二人は目を見交わせた。
「…これだけは覚えておいて。あなたが魔王を目指す限り、あたしはあなたの味方よ」
小さくアルは笑った。
「また明日」
「また明日」
短な挨拶の後、リアの前で静かにドアが閉じた。