3-21 魔族からの逸脱者
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
ある種の感慨に浸っていた。真剣な面持ちで見返してくる男性種の目を深く覗き込んだ。
魔族は、絶大な力を持ちながらも力を使うことに慎重だ。否、絶大な力を持つがゆえに慎重なのだと言い換えるべきだった。
たとえどれほど強力な力であろうとも、場も相手もわきまえずに使っていれば日常が破綻する。魔族にも日々の生活は存在し、人は日々の生活に対してより多くの時間を費やす。そして、制御されない力の発動は日々の生活を油断できないものに変容させるからだ。
力の行使は力の行使を喚起し、伝播した力はさらなる力の行使を生む。世界に拡散した力は意図せぬ関わりと効果を生じて、殺し合いの連鎖を生み出しかねない。殺し合いの中から生まれた怨嗟の声は、一族の全てはおろか無関係の人間さえも引きずり込んでなお止まない。最悪の場合は戦争だ。だからこそ、力を使うべき場を見極めることも優れた魔族の特性であり、義務だった。
しかし、アルの場合は事情が違う。危機に直面しながらも、それでも争いを回避し続けたのだ。魔族の思考と行動から遥かに逸脱していた。
視線を外すと、リアは片方の手で額を押さえて顔を伏せた。アルの習性に打ちのめされていた。
アルの過去の行動が理解できなかった。危害を及ぼす相手に対して力を有しながら攻撃を加えないとは。もし力が足りないというのなら、なぜ磨こうとしない。天与の能力を練磨せずに生きるなどリアにとっては理解の埒外にあった。それではただ生き永らえているだけで、生を全うしていない。