3-20 荒事は好きじゃない
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「…もしかして、他の魔族と闘った経験がないの?」
アルが頷いた。
「でも、盟約の儀の時、あたしの手に傷をつけたわよね? つまり、魔力を武器に変換したことはあるんでしょ?」
「刃を生成したことならあるよ。仕事のためにロープを切ったりするからね。だけど、人に向けたことなんかない」
リアは目を見張った。軽い驚きを感じていた。アルが手を傷つける行為をひどく逡巡した理由に気づいたからでもあった。
「他人ともめ事を起こしたことすらないの?」
「…ないことはないけど。…でも、もっぱら相手が突っかかってくるだけで、ぼくが起こしたくて起こしたことなんてない」
「そういう時ってどうしてたの?」
「…だいたい逃げて、どうしても逃げられない時は身を守ることに徹してた」
リアは言葉を失い、アルも沈黙した。
これほどに争いを回避する魔族とリアは出会ったことがなかった。
「…腹が立たないの?」
「…それは…、もちろん立つよ。だけど、荒事は好きじゃない」
リアは胸を使って小さく息を吸った。