1-3 三十一人目の到達者
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「あそこ。三十一人目よ」
リアは、レガートの側からは死角になっている広間の入口を指し示した。レガートが首を振り向けた。
「へえ」
レガートが冷笑を浮かべた。さして興味はなさそうだった。レガートの反応との落差を振り払うようにしてリアは頬にかかる紅い髪を手でよけた。
真紅の髪と真紅の瞳をリアは持っていた。しなやかで真っ直ぐな髪の毛は背まで伸び、毛先にわずかに膨らみがあった。額にかかる前髪と耳の前の一房を残して横の髪を後ろに流している。留めているのは三つの翼が折り重なった形をした黒い金属製の髪飾りだった。
レガートは醒めた視線を三十一人目に向けている。声をかける気になれなかったリアは同じように少年を見つめた。
少年は入口から離れて広間へ進み出るところだった。遠慮がちな足運びで身を縮こめるようにして歩いている。ひどく気遣わしげな様子をしていた。そんな少年を広間にいる胞奇子と調制士たちもまた見ていた。
少年の歩みは広間の中ほどで止まった。歩くのをやめる頃には気もほぐれたらしく、布袋を手にしたまま天蓋や広間の上の回廊に首を巡らせている。
首を上向けた少年の視線と様子を伺っていたリアの視線がかみ合った。リアが頬杖をついた姿勢で見つめ返すと少年は困ったように目をそらせた。
…ふーん。顔はかわいいわね。
さほど感興をもよおすことなくリアは思った。魔王を継ぐ者に外見は関係ない。むしろ別の要素に感づいたリアは少年に興味を持った。
「随分と貧弱な到達者じゃないか」
優越感を笑みに変えたレガートにリアは真顔で応じた。
「そう? …結構、やるかもよ」
「何を言ってるんだ、リア。見ただけで分かるだろ? どう見ても平民出身で、相転儀の訓練だって受けちゃいない。ここに到達しただけでも奇跡さ」
相転儀は魔族が持つ異能の力の総称だ。力の強弱や種類は異なるものの、全ての魔族が等しく持つ。しかし、社会の上層部を形作る貴族階級以外の民は生まれ持った力を使うことはあっても体系だった訓練を受ける機会を持たず、能力を開花できずにいた。生活のためにほとんどの時間を費やすためだ。一方で、貴族階級にとって相転儀の修練は必須だった。貴族の治める領土は無論のこと、領土の集合体である魔界を統治するには時に力を必要とする。貴族は社会の上層にいるがゆえに力を行使する場面にもより多く遭遇せざるをえない。相転儀の訓練は、生活のための作業を必要としない貴族階級の特権であると同時に義務だった。