3-9 お金や物を持ってるからじゃない
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
あたしが何とかしてやらないと。
義務感が形を成したような言葉が意識に昇り、リアは慌てて首を振った。
違う違う。今のは同情とかそういうんじゃなくて。あたしがここに来たのは魔王の調制士になるためなんだから。アルには魔王になってもらわないと困るのよ。
目をやると、アルがうなだれた姿で立っていた。
―いけない。
激情が過ぎるとリアは冷静さを取り戻した。冷静になるのと同時に申し訳なさに覆われ、謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさい」
体をしゃがませて床に落ちた物を拾い集めた。
調制士のあたしがアルを動揺させてどうする。
後悔の念が湧き、言い訳がましく弁解した。
「…これはあなたを傷つけたくてやったわけじゃないの。あなたのことを知りたかっただけ。…だけど、やり過ぎたわ」
「ううん。ぼくこそ、こめんなさい」
アルの細い声を耳にし、リアは拾うのをやめた。
「…何を謝るの?」
立ち上がるとアルを見た。胸に沈んだような感覚があった。謝らねばならないのは自分であってアルではない。
言葉を待っているとアルが静かに言った。
「…ぼく、何も持ってない」
視線はリアの手に握られた袋に注がれている。
「…背も低いし、強そうでもないし。こんなぼくと組んでもしょうがないよね」
思ってもいなかった言葉を聞いて、リアは笑った。あまりにも筋道が外れているので苦笑気味になった。
「アル、あたしがあなたを選んだのはお金や物を持ってるからじゃない。それに外見と事実は違うのよ」
「…でも」
アルは視線を落としたまま呟いた。