3-8 何もかももう一度
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
所持品が少なすぎた。これでは何も所有していないに等しい。支度金の入っていると思われる小さな袋の一方も中身の貧弱さを音が示していた。確認するまでもなかった。アルの突き落とされた状況の過酷さが持ち物にも現れていた。
椅子から立ち上がったアルは何も言わなかった。それどころか申し訳なさそうに顔を俯けた。
リアは立ったまま、悄然とした気持ちが増すのに耐えた。
…バカだ、こいつ。
なじる言葉しか思い浮かばなかった。
こんなわずかな装備で何をしようというのか。王選びに参加したからといって魔王になれるとは限らない。むしろ、魔王の座に手が届かずに終わる者の方が圧倒的に多いのだ。試練に挑む者が多数である以上、当然の事実だった。
魔族は自分の力を信じている。しかし、だからこそ人のネットワークを大切にする。血縁や仕事上のつながり、住む土地で培った住民間の互恵関係など、種類や大きさに関わらずあらゆるものを使って生きる。でなければ冷酷な世界の中で干上がるだけだ。持つ力が強大であるほど反動も大きい。
なのに、アルには何もなかった。何もかもこれからもう一度作らなくてはならないのだ。