3-7 …たった、これだけ
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
魔族は、性質に反して保守的な生き物だった。魔族は土地に縛られて生きる。慣わしではなく、自ら選んだ生き方としてだ。
特殊な能力を有する魔族は、見知らぬ土地の住人からすれば脅威以外の何者でもない。公的な保護がなければ生まれた場所以外では命を永らえることさえ難しいのだ。ゆえに普段は大規模な移動は控えるのが通例だった。居住する場所については言うまでもない。
そんな魔族の世界で住み慣れた場所を追われる事態は死に等しかった。金額はどうあれ支度金などたいした働きはない。生き延びる時間がつかの間増えるだけだ。
そうだ、袋!
思考の淵に沈んでいたリアは、唐突にアルの荷物に思い当たった。廊下で交わした会話と手にしていた袋の軽さを思い出していた。
椅子から立ち上がると長椅子に置いてあった袋を手に取った。
「中、見せてもらうわよ」
返事も待たずに中身を床にぶちまけた。
中に入っていた物が袋の口から吐き出される。落ちた物が床に触れる音がいくつかし、小さな袋が落ちた時には複数の金属がぶつかる硬い音がした。
絨毯の上に転がった物は小さな袋が二つ、そして、木を削った粗末なコップにスプーンとフォークが一式だった。
「…たった、これだけ」
空になった袋を手にしたリアは言葉を失った。