3-4 最下層の賤民だったとしても構わない
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「改めて名乗るけど、あたしはリーゼリア・バザム。ゴノーのビシュテイン出身よ。場所は分かる?」
指先で髪をかき流しながら言うリアにアルが頷く。
ゴノーは求法院のあるギデルの次に大きな大陸だった。ギデルの西北に位置する。自然を色濃く残すギデルとは対照的に開けた地域が多く、人種も雑多だ。ビシュテインはゴノーの南東にある比較的温暖な統令地で商業が盛んだった。
「あたしは、そのビシュテインの中の分令地で生まれたの。父は令主よ」
ただ一人の魔王が全世界を掌握する魔界では各地域を分割して治める必要があった。最も大きな単位が統令地で、統令地は分令地と呼ばれる小区域によって構成されていた。統令地の長は統主と呼ばれ、分令地の場合は令主だった。
「…じゃあ、貴族だね」
「そうね。だけど、あたしはそんな呼び名や位置づけに関心はないの。たとえ、あなたが最下層の賤民だったとしても構わない。盟約を結んだ以上はあなたとあたしは対等で、調制士が胞奇子をサポートする立場という意味ではあなたが上だと思ってもらってもいい。そのつもりで接して」
真剣な表情で語るリアにアルは頷きで応えた。
「とは言っても、あたしはこんな性格だから、苦労するのは覚悟してね」
リアが笑う。アルは曖昧な笑いを浮かべた。本気か冗談か迷ったようだった。
「後は…。さっき、相転儀について質問したわね。あたしは生まれのせいもあってお呼びがかかったの。貴族階級の女性種がスカウトされやすいのは分かるでしょ? だから、能力については信頼してもらっていい。具体的には、後で実際にお見せするわ」
リアが覗き込むようにして身を乗り出した。
「次はあなたのことを聞かせて」
目が好奇心で輝いていた。アルは気後れしたかのように視線を落とした。
「…ぼくはジャーライルの出身なんだ。…その、島の集まりなんだけど…」
リアが頷いた。大広間でのドロスとのやり取りの中で既に聞き知っている。
「…ゼーナゴアの近くにあって、その中の島の一つで生まれ育ったんだ。…平民だね」
アルは言葉を切り、リアを見上げた。リアは変わらず笑んでいた。目を戻すとアルは話を続けた。