1-2 レガート・ゼイル
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「どうした、リア?」
愛称で呼ばれたリーゼリアは、同じテーブルに向かい合って座る一人の男性種に目を戻した。
男はテーブルに片肘を乗せて怪訝そうな顔をしていた。ウェーブがかった黒い髪を額にかかるようにして分けている。後ろの髪の長さは首筋までしかなく、性別にかかわらず長い髪を好む魔族としては短かった。挑戦的な光を放つ瞳は黒く、髪の毛同様深い色合いをしていた。見つめていると闇を覗き込んでいるような気になる。皮肉げな口元と相まって気の強さが表情に出ていた。肌の白さは白色種の白だ。リアの黄色種の肌の白さとは違う。長身をリアと同じように黒の制服で包んでいた。
求法院に集った者は男性種も女性種も決まった制服を身につける。黒地に緋色の縁取りを施した制服は飾り立てているわけでもないのにひどく目立つ。ウエストを絞ったダブルの上着に男性種は折り目の入ったボトムを合わせ、女性種はフロントに二つの直線的なベント、サイドにプリーツのある膝丈のスカートの下に黒色のタイツを着用する。足は革の靴だ。男女ともに白いシャツを着て紅いスカーフを巻くため、素肌が見えるのは顔と首と手だけだった。肉体を魔力の源泉と考える魔族は肌を露出することを極力避ける。長い髪を好むのも同じ理由だった。
男の名はレガート・ゼイルといった。リアと同じ統令地から参加者の一人としてこの地に赴いた。魔界は数多くの統令地によって構成され、さらに細かく分けた分令地によってできている。同じ分令地で生まれ、親同士に親交のあったリアとは幼い時からの友人だ。調制士としてピックアップされたリアとは求法院で合流した。初日に、しかもトップで到達したレガートとともに過ごすのも七日になる。
胞奇子となった男性種に調制士となった女性種、しかも幼馴染みとなれば互いをパートナーとして認め合ってもおかしくなかった。しかし、二人はまだ盟約を結んでいなかった。リアの側で踏ん切りがつかなかったからだ。
レガートは魔王の後継者となるに相応しい能力を備えている。それは小さな時からレガートを見てきたリアには自明だった。貴族としての血筋や容姿など、男性種としても優れた性質を合わせ持っている。パートナーとして認め得る相手であることは頭では理解できた。理解してなお、リアは選択を躊躇していた。なまじ長い間近くで接してきたために異性種として意識した経験がないのも原因かもしれなかった。胞奇子と調制士は共に行動する時間が長く、男女の仲となる事例も珍しくない。異性種として向かい合わねばならない状況を無意識の内に回避しているようにも思えた。