4-5 高き存在
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
事前のレクチャーを担当していた謹厳そうな女性種がしたアドバイスも、こうだった。
『高き存在を育てること。それが、ここに集ったあなた方の役目です』
あまりにも当たり前な言葉をリアは軽く聞き流していた。後で気づいたことは、言葉が何も言い表していない事実だった。
高き存在、って言われても…。何を基準にするんだろ? 相転儀の訓練なら死ぬほどやったけど。考えてみれば、力しか鍛えてないのよね…。院長の問いに対しての答えとしては不足してるわ。
今に至ってなお、リアは不満だった。
現時点で満たしているのは、宣始式でのガルカの呟きレベルだ。必要最小限であって十分な要件にはなっていない、というのがリアの結論だった。
ただ、必要最小限を確保できてるだけでも悪くはないわ。
リアが施した訓練は確かにアルを鍛えていた。アルの相転儀はさらに凄みを増し、強く逞しい胞奇子として育っていた。仮に、最終試練が胞奇子同士のバトルだったとしても勝ち抜ける自信がリアにはあった。
ドロスを打ち破った強大な力を行使しても、アルには相成斑が出なくなっていた。調制の進展に伴って魔力の容量自体が増加したためだ。レガートとの戦闘で露呈した弱点も補強した。同程度の衝撃なら凌げるようになっていた。望まぬ闘いも、自ら招いた窮地も取り込んでアルは成長していた。
マイナスさえもプラスに転換できる者が成功するってパパは言ってたけど…。言葉は知らなくても実践しちゃうあたりが、我が胞奇子ながら凄いわよね。
考え込んでいたリアは口元を綻ばせた。
やるしかない、か。
宣始式で思い浮かべた言葉を、リアは再度噛み締めた。
足取りも軽く、食堂を目指した。