3-2 二人の警護員
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
リアに引き連れられたアルは食堂から各建物へと伸びる石畳の一つを歩いていた。石畳はいくつかの分岐とともに中庭に敷いてある。周囲には背の低い植栽や花壇、小さな池があり、幾人かの胞奇子や調制士の姿があった。
調制士の宿泊棟と他の建物をつなぐ回廊まで来ると、リアは吹き抜けになった場所から中に入った。飾り窓の連なる幅広の回廊をしばらく進むと入口に着いた。
入口は大広間とは異なり、比較的小さな木製の扉になっていた。炎を象った紋様が全体に掘り込まれた両開きの扉だ。中に入ると女性種の警護員が二人、通路の両側で向かい合う形で椅子に座っていた。余裕のある四角い窪みが通路にあり、窪みに窓はない。優美な曲線で形作られた椅子に座る警護員は二人が近づいても身動き一つしなかった。
向かって右の警護員は背が高く、肩幅もあった。衣装の上からも分かる鍛えあげた体をしていた。優れた体格と合わせて下手な男性種よりも逞しい。服はパンツスタイルの黒のスーツで、白いシャツにネクタイを締めていた。短めの青い髪を首筋でひっつめている。中央の生え際から一筋の髪の毛がばらけており、奥から深い青の瞳が冷たく二人を観察していた。
もう一人は、どこかの令嬢にも見えそうな華のある女性種だった。上は文礼員よりも飾りの多いブラウスにリボンタイを締め、黒のベストを着ていた。下は黒地に黒い糸で大きな模様をあしらったスカートで足首の見える長さだった。細身によく似合っていた。リアと同じぐらいの背丈をしており、小さく縮れた濃いブルネットの髪の毛は背中で広がっていた。耳に長く下がったピアスをしている。先端の丸い珠も鎖も光輝く銀色だ。長い睫毛の下の緑の瞳は鋭い。
調制士の宿泊棟に男性種が入るには条件があった。胞奇子の場合はペアを組んでいる調制士を伴うことだった。そのため、胞奇子は調制士に入口まで迎えに来てもらう必要があった。男性種は本棟のスタッフでさえ滅多には近づかない。
調制士の宿泊棟に男性種が入るには条件があった。胞奇子の場合はペアを組んでいる調制士を伴うことだった。そのため、胞奇子は調制士に入口まで迎えに来てもらう必要があった。男性種は本棟のスタッフでさえ滅多には近づかない。
警護員に近づいてもリアは声をかけなかった。二人の警護員の側も同じだ。他の警護員も含めて特に親しんだりはしていない。中には挨拶をする調制士もいたが、警護員は目礼を返す程度だ。レクチャーの時も施設の一部ぐらいに思うよう言い含められている。時折リアは、ピアスの警護員から視線を感じることがあった。目を向けると妙に底光りする目つきと出会う。しかし、その体験もさほど気にしてはいなかった。
リアは何も言わず警護員の間を通過した。アルは落ち着かない様子で警護員に目をやりながら後ろからついて歩いた。
警護員の間を抜けると、リアは左手に見える幅の広い階段を昇り始めた。古めかしく重厚な手すりを備え、段全体に濃い赤の絨毯の敷かれた階段だった。宿泊棟には建物の両端に階段があり、リアとアルは回廊寄りの階段を進んだ。
「あたしの部屋は三階よ。念のため言っておくけど、一人でこの建物に入ろうとすると殺されるから」
事もなげにリアは言った。
「そんなことしないけど」
「だったらいいわ。せっかく森を抜けたのに宿泊棟に忍び込もうとして警護員に殺されました、じゃ締まらないものね」
リアは含み笑いをした。