3-12 アルの本質
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
リアが歩いて近づくと、アルが初めて立ち上がった。顔には安堵の表情がある。安否を問う言葉を取り交わした二人は笑顔になった。
アルの手の異常に気づいたリアは眉をひそめた。
「あなたこそ、大丈夫?」
「え? うわっ! 何これっ!?」
リアの視線を追って自分の手を見たアルが驚いていた。手の甲の皮膚がずる剥けて血が滲んでいる。指先に力をこめ過ぎたせいだろう。闘いの見届けに夢中で今まで気づかなかったようだ。
リアは、苦笑と共に感動していた。
カザイラとの死闘には危ない場面がいくつかあった。アルは、その度に手に力を込めて我慢したに違いなかった。
カザイラとの戦いは、リアにとって大事な瞬間だった。手助けは感謝すべきものなどではなく、忌避すべきものだった。もし、闘いに介入するようなことがあれば、リアは誇りを傷つけたアルを許さなかったはずだ。なじり、傷つけ、脅しではなく本当に殺しさえしたかもしれない。アルは確かにリアとの約束を守ったのだ。
これほどの男を魔族らしくないとずっと思っていたなんて。
リアはアルを静かに抱きしめた。
「…ごめんなさい」
呟くように言った。
「え? あ、これは、ぼくが勝手に…」
勘違いしたアルが戸惑っていた。
リアは苦笑しながら抱きしめ続けた。
死んだカザイラの方がずっとアルの本質に気づいていた。
そのことが、おかしくも哀しかった。