3-1 行くのは、あたしの部屋
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「今度はどこへ行くの?」
リアの後ろをついて歩きながらアルが訊いた。
求法院の黒い制服を身につけ、靴も革のものに変わっている。半端に伸びていた髪の毛も切り揃え、こざっぱりとした姿になっていた。治癒室での治療の後、再び文礼室に戻って身なりを整えていた。リアのスカートも元に戻っている。文礼室の隣には胞奇子と調制士たちの衣服を調達する被服室と容貌を整える理髪室がある。求法院を案内されているかのように部屋を渡り歩き、早めの昼食を食堂で摂った後だった。
「あたしの部屋よ」
振り返りもせずにリアは言った。手にはアルの荷物を提げている。食堂からは右に位置する調制士の宿泊棟に向かって中庭を淀みなく歩いていた。
「どういうこと?」
アルの声には怪訝な色があった。
「嫌とは言わせないわよ。って、変な意味じゃないから勘違いしないで。胞奇子のための訓練室は調制士の部屋にあるのよ。さっき、あたしの相転儀について尋ねたでしょ? 自己紹介かたがた教えておくわ。あなたのことも知っておきたいし」
リアは後ろに視線を振って言った。
「ぼく、夜通し森を抜けたから疲れてるんだけど…」
「…手短に済ませるから我慢なさい。それに部屋の位置を覚えてないと何かと困るわよ」
「…は~い」
アルの返事は生気に乏しかった。食事の直後だったせいもあるかもしれない。
「しゃきっとしなさい」
背筋を伸ばしたアルが初めて気づいたかのように言った。
「荷物、自分で持つよ」
「いいわよ、このぐらい」
「そう?」
「だって、もの凄く軽いもの。元々着てた服は預けてあるから分かるけど、それにしても軽いわ。何が入ってるの?」
「…旅するのに都合がいいから、最低限のものしか持ってこなかったんだ」
「そうなの」
さして興味も無さそうに言うとリアは中庭を進み続けた。