3-4 敵対した者の無念
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
訓練を早めに切り上げたアルとリアは中庭を歩いていた。
せっかくなので食堂でお茶でも飲もうというつもりだった。結果としてペアも三組まで絞られ、込む恐れはなかった。
春の日差しは晴れやかだった。二人が歩く石畳の横を彩る花壇の花も華やいで見えた。時間も早く、他に人の姿は見えない。
横を歩くアルの胸元に目を留めたリアが訊いた。
「スカーフ、本当にそのままでいいの?」
アルの身につけているスカーフは、決闘でレガートが差し出したものだった。本来はレガートの持ち物だ。
スカーフは色も形も同じであり、個体を識別する相転儀も埋め込まれていない。他の参加者のスカーフを着用しても支障はなかった。リアの質問は、多分に気持ちの問題だった。
「いいんだ」
アルの返答は明快だった。
「レガートも魔王を目指した人間だからね。せめて、スカーフだけでも持っていこうかと思って」
かすかな苦笑をリアは浮かべた。
友だけでなく、敵対した者の無念をも連れ立って階段を昇るつもりか。
アルらしい、とリアは思った。
声がかかったのは、そんなやり取りをしている時だった。
「―リーゼリア・バザム」
この声はっ!
会話に関連した事柄だったためだろう。すぐに気づいて振り返った。
カザイラ・ベーマだった。




