2-1 決闘の始まり
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
闘技場の観客席に、リアはいた。アルがアダランを申し入れた翌日の午前だった。
闘技場は求法院の奥まった場所にあった。アルとギーツがドロスと闘った森を抜け、さらに進んだ場所にある。古代の闘技場を模した建物は全体を石によって建造されており、屋根を持たなかった。円形をした闘技場は大きく、相転儀での戦闘を想定しているために不必要なほど広い。対岸の席の人影が豆粒のようだった。観客席の上部に集中して座っていながら、それでも人影はまばらだ。
観客席は闘技場の戦闘域を取り囲んで段を成している。リアは右側の観客席の上段にいた。闘技者が入場する門の上方だ。戦闘域とは相転儀のフィールドによって隔てられており、観客席には戦闘の影響は及ばない。求法院を取り巻くフィールドと同じシステムだった。それでもなお起こり得る不測の事態に備え、観客席の下三分の二は閉鎖されていた。
観客席にいる人影は求法院のスタッフたちだった。アダランは、公平を期するために複数のスタッフが立ち会うのが決まりとなっている。候補者も絞られた現在、決闘の実行はより厳密な状況で行なわれる必要があった。まるで所を変えた宣始式のごとき有様だった。最低限の人員以外は全て闘技場に集まっているはずだった。観客席にはガルカやゾグナたちの姿もあった。
リアは、締めつけられるような思いに胸を塞がれていた。目をつむり、両手を握り込んで胸元に引き寄せた姿で座っていた。可能性を見出したはずなのに悪い予感がしてならなかった。
これから行なわれるのは命がけの闘いだった。あまりにも相手が悪すぎた。これが他の胞奇子なら、まだ救いがあった。リアはレガートの実力を知るがために恐れていた。
一つ、心残りもあった。レガートの能力をアルに伝えられなかったことだ。伝える機会はあったにも関わらず、リアは伝えることができずにいた。
…アルは、あたしのために闘うのに。
自身が原因となった争いであることが、リアの心を辛いものにしていた。
観客席でざわめきが起こった。
リアは目を開いて顔を上げた。
対岸の門が開こうとしていた。