2-12 治癒室
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
アルが治癒室から出ると一足先に治療を終えたリアが待っていた。
リアは廊下の反対側に置かれている皮張りのベンチに腰掛けていた。気づいて顔を上げた。横にはアルの布袋が置いてあった。
アルは、パートナーとなった女性種の姿を改めて眺めた。
気の強そうな眉の下で紅い瞳が自分を見ていた。白い肌と整った顔立ちは異性種としての魅力に溢れていた。長い艶のある髪が肩で前後に振り分けられ、紅い色が黒い求法院の制服に映えている。均整の取れた体にも、揃えた脚を斜めにして座る姿にもどことなく洗練された雰囲気があった。アルの生まれ育った島の女性種には見受けれないものだった。成り行きはどうあれ、目の前にいる女性種が調制士である事実に実感が湧かなかった。
何も言わないでいるとリアが声をかけてきた。
「傷は治った?」
慌てて頷く。治癒室で相転儀による治癒を受けたので、傷とともに痛みも消えている。
「ごめん、リーゼリアさん。ハンカチ、処分されちゃった」
「いいわよ別に、それぐらい」
「…でも」
「気にしないの。あたしはあなたの調制士なんだから。何でもないの」
朗らかな声を聞いてもアルの気持ちは晴れなかった。視線を落とし、ためらいを示しているとリアが言った。
「申し訳ないと思うなら、魔王になりなさい」