1-19 荒れるレガート
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「たとえそうでも同じよ。貴族とそれ以外の民は、単純に支配と服従の関係にあるわけじゃないわ」
「そうかい。ご立派な講義をありがとう、とでも言っておくか。だが、いいのかな?」
「?」
レガートが含みのある言い方をした。
「おまえの分令地はカザイラの父親が代行して治めるそうだ。後ろ盾のなくなった人間は、今のうちに取り入っておいた方がいいんじゃないか?」
眉をひそめた表情でリアはカザイラを見た。カザイラは、いつもの薄い笑いで応じた。
これが狙いか。
冷めた気分でリアは思った。くだらない。ただ、嫌味を言うためだけに待ち伏せとは。ご苦労なことだ。
笑みを浮かべるとカザイラに言った。
「よかったじゃない」
「?」
今度はカザイラが怪訝になった。
「魔王の調制士になれなくても、故郷に戻れば仕事があるわ」
痛烈な皮肉だった。
カザイラの顔から笑みが消えた。不穏な空気が立ち上った。
「バカなことをっ! おれが魔王になり損ねるわけがないだろうがっ!」
レガートが声を高め、足でテーブルを蹴った。置かれていたティーカップがうるさい音を立てた。
冷たい視線をリアはレガートに戻した。
気品がなくなった、とリアは思っていた。以前のレガートはこんな乱暴な振る舞いはしなかった。椅子を傾けて座るような不行儀もしない。言葉遣いも変わっていた。一緒にいた頃は自分を指して『おれ』などとは言わなかった。
髪が伸び、どことなく崩れた印象のあるレガートを静かに見下ろした。