1-15 真価の問われる時
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
しばらく静かに泣いた後、リアは笑顔を作った。
「ごめんなさい」
「ううん」
アルは首を横に振った。
「悲しい時は泣くのが一番だよ」
哀しみの見える笑い顔をしていた。
「ぼくは、母さんが死んだって分かっても泣けなかったんだ。その間、ずっと苦しかったよ」
リアは泣き笑いのような表情をした。どんな言葉を返してみたところで相応しくないような気がした。立ち上がると言った。
「訓練を始めましょう」
「え? でも…」
「お願い。やらせて」
何か言いたげなアルにリアは真剣な面持ちをした。目を見交わせたアルは、返事をすると立ち上がった。訓練室に近づくと着替えるために一人で中に入った。
リアは、普段通りドアに身をもたせかけて声がかかるのを待った。
…こういう時こそ、いつもの調子を保たないと。
自分に言い聞かせていた。訓練は継続してこそ意味がある。どんな出来事が起ころうと、途切れさせればアルの調制にまで狂いが生じてしまう。そんな事態は避けなければならなかった。順当な時に頑張ることなど誰でもできる。苦しい時こそ人は真価が問われるのだ。
…それに、何かしていた方が気が紛れる。
どうやっても沈み気味な心の中で思ってもいた。
胸の中が沈みながらもざわめいて、悲しいのか悔しいのか分からない。内から焦がすような衝動を感じて辺り構わず喚きたかった。一方で、そんなことをしても無意味だと悟っている自分もいる。制御不能な心の働きから逃れたかった。それには何かに集中するのが最上の処置だった。