2-11 血で穢れた白いハンカチ
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「離すわよ」
アルに断って手の平を外すと傷を眺めた。
血は止まっていた。まだらな血の汚れに囲まれた傷は筋目にしか見えない。放っておいても構うまい。そうリアは判断した。
「傷を見せて」
アルの手を取る。アルの傷はまだ生々しかった。血が浮き出ており、細い筋を引いて手首に向かって流れていた。いくつかは乾いている。
「治癒室に行かないと」
リアはスカートのポケットからハンカチを取り出すとアルの手に巻いた。白い布地に染みた血が斑点をつけた。アルが気にした。
「汚れちゃうよ」
「大したことじゃないわ。儀式は終わりよ」
ハンカチに結び目を作ると、リアは祭壇の上に置いておいたナイフを取り上げた。ナイフは手の中で元のボタンに姿を戻した。制服のポケットに仕舞う。ボタンは後で係の人間に取り付けを依頼するつもりだった。裁縫用具など手元になかった。
退出を促すとリアは入口に向かって歩いた。アルが遅れて続いた。
「あ、あの」
声をかけられたリアは振り向くと次の言葉を待った。
「君の相転儀って、何?」
問われたリアは意味深な笑みを浮かべた。
「そのうち嫌でも分かるわ」
それだけ言うと先に立って歩き、アルの荷物を手に取った。閂を外し、ドアを押し開く。
「まずは治癒室」
笑みは親しみを含んだものに変わっていた。