1-10 リアを訪れた穿刺体
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
アルとの訓練の日々を送るリアに変化が訪れたのは突然だった。
ある朝、着替えをしてアルを迎えに行こうとしてしていたリアは物音に気づいた。何か固い物を尖った物が叩く音だった。
音のする方向に顔を向けると中型の黒い鳥がいた。居間のベランダに降り立ち、大きな窓の下のガラスを嘴でつついている。外は今にも雨が降り出しそうな曇り空だ。
鳥は幅の広い短い翼と長い尾を持ち、鋭い目と先端の曲がった鋭く短い嘴をしていた。
正体は一目で知れた。魔族が個人間の伝達に使う穿刺体の一種だった。
「ママ!?」
驚きの声をリアはあげた。
リアの家は元々は商家だ。貴族に列せられるようになってからは別の呼び方を躾けられていたが、驚きの感情のために癖になった呼び方が口をついて出ていた。
窓に駆け寄ると穿刺体を呼び込んだ。隔たりのなくなった鳥は、小さく羽ばたくと居間のテーブルに止まった。リアは窓を元通りに閉め、テーブルまで歩いた。穿刺体は屹立した姿でテーブルの上から見上げると目を見交わせた。
間違いなく、リアの母親の寄越した穿刺体だった。形がメッセージを託す鳥らしくないことを母親は気に入っていた。