1-8 アルの苦手
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
…あたしが注意を払うべきだった。
アルを見ながら思った。
模擬戦闘の時間が長くなり過ぎた。継続は認めても、どこかで止めるべきだったのだ。集中力が途切れたところで攻撃が当たれば致命傷だってあり得る。リアは自分の迂闊を責めた。
どちらかと言うとアルは接近戦に強い。光球による防御があるので、力任せや刃物による攻撃には対応しやすいのだ。スピードのある相手にも、同調して俊敏に移動することで対応できる。しかし、飛来する敵の攻撃には手こずる傾向にあった。伝聞ではドロスとの決戦の際にも一度捕まっている。
―レガート。
リアの脳裏に一瞬、闘うレガートの姿が思い浮かんだ。頭を振って考えを追い出した。対決することがないなら無用な心配だった。考えるべきではないように思えた。
「もう少しなのに…」
呟くアルは悔しそうだった。苦手を克服するために、最近では午前と午後の訓練で必ず遠距離からの攻撃パターンを組み込んである。アルのぼやきは壁を乗り越えられないことへの不満の表明だった。手応えが出てきているので逆に焦っているのだ。
「焦っちゃ駄目よ。いつも言ってるでしょ?」
「…うん」
力無く返事をしたアルが顔を向けた。
「何だか、焦れてしょうがないんだ。体の奥から急かされて、我慢すると体が弾けそうな気がする」
リアは苦笑するしかなかった。
焦るなと言い聞かせたすぐ後でこれだ。追い立てられた気分は相当なもののようだった。訓練の合間に交わした会話では、食事や排泄さえも邪魔に思える時があるらしい。リア自身、調制に入れ込んでいる時には感じたことのある心理なのでよく分かった。