1-6 人を作るもの
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
人を作るものは、熱意だ。
リアは思った。
アルはギーツの挫折によって心に傷を負った。普通の魔族なら、自己の挫折に傷は負っても他人の挫折に傷を負うことはないだろう。しかし、アルは優しさを持つがゆえにギーツの挫折を自分のものとして受け止めた。心の傷は熱意に変わり、熱意は心と体を突き動かしてやまない意欲となって表面化していた。意識の変化が外面の変化をもたらしたのだ。
人が変わるには、たった一つの要素があればいい。アルの場合は、それがギーツのリタイアだった。
傷つくことがアルを変えた。
哀しい傷跡を残して。
つくづく規格外の魔族ね、アルは。
リアは、アルとヴァン・キ・ラーゴの戦闘を眺めながら感慨にふけった。
…変えたのが、あたしじゃないのがちょっと癪だけど。
苦笑すると、リアは戦闘を継続中のアルに声をかけた。昼食の時間が近い。
「そろそろあがりましょう」
激しい弾丸の応酬の最中にもアルはリアの声に気づいた。視線を送り、上方にジャンプすることによって余裕を作ると叫んだ。
「まだだっ!」
激しい口調と思いがけない返事にリアは目を丸くし、口元をほころばせると言った。
「いいわ。音を上げないでよ?」
身を返すと金属球の置いてある台まで歩き、腰をもたせかけた。少し長くなりそうだった。