2-10 盟約の儀
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
リアは声を出すために息を一つ吸った。
「…もう…少しよ」
口にした言葉は喉に絡んだ。アルが頷く。
盟約の儀は、胞奇子と調制士の血を混ぜ合わせる文字通りの血の儀式だった。熱は血を介して魔力が互いの体に侵入する際に現れる現象だった。
本来、混合してはならない魔力を交えるのは契約に強制力を持たせるためだ。
身の内に溶け込んだ魔力は、互いが生存している場合には何の変化ももたらさない。しかし、一方が死を迎えた瞬間から残された魔力は異物に変わる。異物として認識された魔力は肉体や精神を蝕み、あるいは魔力に直接作用して衰えさせる。パートナーを失った者は協力者を失うだけでなく、半永久的な負荷を抱え込むことになる。過酷な魔族の社会ではわずかなマイナスが生死を分ける元となるため、互いのために尽力せざるを得なくなるのだ。盟約の儀は、パートナーとしての約定を結ぶと同時に忠誠を誓う儀式でもあった。
熱気が猛威を振るって体中を駆け巡り続けた。体の隅々で皮膚が張り詰めるような感覚が全身にあった。視界で部屋のともし火が揺れている。二人の間で行き交い、巡り渡る魔力が外部にまで影響を及ぼしているのだ。力の激しいせめぎ合いの中にいるにもかかわらず部屋の内部は静かだった。自らの息遣いが耳朶に響く。内側から胸を叩く心臓の音が狂おしい。
体を内から揺り動かす脈動と熱気に耐えていると唐突に動騒は収まった。燃え盛る火が水にかき消されたかのように瞬時に熱も消えた。同時に、体中で感じていた圧力も消失した。
深く、リアは息を吐いた。首筋と頬に熱の余韻が残っている。滲んだ汗が冷めていく感覚が肌にあった。儀式の終わりを悟った。
「大丈夫? アル」
「…うん」
返事は生気に乏しかった。儀式の最中に味わった感覚が強烈だったためだろう。あらかじめ聞かされていたリアでさえひどく驚いていた。
感慨のためか、汗に奪われた熱のためか、リアは一つ身震いした。