4-25 その身を空けておきなさい!
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
ナヤカが二人の前に立った。いつもと変わらぬ瞳で見上げた後、無言で小さく頭を下げると歩き去った。物静かなナヤカらしい別れの挨拶だった。アルとリアは複雑な思いに捉われ、かける言葉を見つけられずにいた。
ギーツの姿が旅客船の中に隠れると、昇降口にかけられたスロープを使ってナヤカが続いて乗り込もうとした。
「―」
前触れもなくリアが駆け出した。アルは、旅客船に駆け寄るリアの姿を驚きながらも目で追った。
「ナヤカ・エジェイル!」
「?」
スロープの途中で振り向いたナヤカを、リアは真剣な表情で見上げた。
「いい? あたしとアルは、あんたとあんたの片割れがしてくれたことを忘れない。だから、どんな手を使ってでもギーツを治して、あたしたちが魔王になった時のために二人そろってその身を空けておきなさい!」
倣岸に言い切った。間を置いてナヤカが微笑った。
「…らしくありませんね、リーゼリア・バザム。…ですが、そのお言葉、わたくしのパートナーともどもありがたく頂戴させていただきます」
そう言うと、スカートを指先で持ち上げて深く一礼した。
魔王の座が約束された者には、自分の手足となる人員を雇える権利があった。少人数なら血縁者でも許される。魔王という特殊な地位のために用意された制度であり、リアの言葉はギーツとナヤカを魔王直属の配下とする意思の表明だった。四人の関係で実現すれば、ある意味魔王となるに等しい出来事だった。