4-13 毒
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「ギーツ!」
アルが叫んだ。
「大丈夫だっ! 黙って見てろ!」
見据えたまま声を出すギーツをドロスは鼻で笑って見下ろした。
「粘るじゃねえか。それがおまえの美学とやらか」
ドロスがギーツを蹴り上げた。直撃を防いだギーツがスティックごと飛ばされ、宙に浮いて背中から地面に落ちた。重い音がし、ギーツが一声呻いた。
ギーツは、上体を起こしたものの立ち上がりはしなかった。膝を立てた脚も、地につけた手も震えていた。
「力が入らねえだろ?」
ドロスは緩慢に近づいた。
「おまえに差し向けたやつらには、手傷を負わせることに専念するよう言っておいた。とどめはオレ様が差したかったからな。おまえに傷を負わせたやつはな、毒の使い手だ。特製なんで、相転儀でも解毒できねえし、使い手が死んでも効き続けるってえ厄介な代物よ。本人も言ってたが、効き目が出るのに時間がかかるのがいけねえ」
ドロスはギーツの近くまで行くと足を止め、首を横に傾けた。
「これでてめえの魔王への道はオジャンだ。オレ様が手を下さねえでも、ほっときゃ、明日の今頃には全身の筋肉という筋肉が動きを止める。最後に心臓も止まって、全て終わりだ。弱えやつは気の毒だよな。オレ様のような強い人間の前じゃ、何ほどの意味もねえ」
ギーツがスティックを支えにして膝をついた。
「よく言うぜ。小細工をした人間が」
「何とでも言いな。オレ様は魔王になるんだ。世界を一つ、この手に握るんだぜ? 人を集めて動かせねえようなやつになれるわけねえじゃねえか。カリスマ、恐怖、欲の充足、何だっていい。人を動かせりゃオーケーなんだよ。美学なんざクソほどの値打ちもありゃしねえっ!」
ドロスが先のない左腕と右腕を掲げて言い放った。いつしか傷を覆い隠した岩は左腕を中心にドロスの体に広がろうとしていた。