4-11 貧しさの意味が違う
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
ギーツが足を踏み出すとドロスが右手を開いて突き出した。
「ま、待て」
「形勢が悪くなりゃ、命乞いか?」
「お、おれの育った土地は貧しいんだ」
「あん?」
片眉を上げたギーツが前進をやめた。
「おれの出身はバルスタンだ。統主と言っても大したことはねえ」
バルスタンは、ゴフラス大陸にある統令地だっった。ゴフラスはギデルの北東にあり、縦に長い形状をした陸地だった。一部に温暖な地域を有する一方で、陸地のほとんどは乾燥した空気と岩や砂で構成された空漠とした土地が広がっている。バルスタンは、乾燥地帯にあった。
「そうか、貧しいのか。そいつぁ大変だな」
「だ、だろ?」
ドロスの顔に安堵の表情が浮かぶ。目を細めたギーツが一歩前へ出た。
「その貧しい場所に生まれたおまえが、同じように育ったアルを傷つけるのか?」
「し、しょうがねえじゃねえか。王になれるのは一人なんだ」
気圧されるように座り込んだままドロスが後ずさった。ギーツは不快げに顔を歪めた。
「しょうがない?」
声は尖っていた。
「貧しく生まれて貧しく育つやつなんざ、どこにでもいるんだよ」
ギーツがゆっくりと足を進め、同じだけドロスが後ずさる。
「だからといって、私腹を肥やしていいことにはならねえし、ましてや、人を陥れていいことにはならねえ。第一、てめえは金をひけらかしたじゃねえか。アルとてめえじゃ、貧しさの意味が違うんだよ」
ギーツの前進とドロスの後退が続いた。