4-10 ギーツの相転儀
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「相転儀が単なる棒術のわけがないだろ? よく考えろよ、悪党」
言いながら、ギーツは冷たくドロスを見下ろした。歯噛みしたドロスが視線をぶつける。
「こいつは今、人の重さの十倍にしてある。だが、こいつはおれの相転儀。おれだけは重さの制約を受けない。そこへおれのパワーとスピードを乗せると―」
ギーツは足を引いて体を捻りざま、足元に転がっていたドロスの腕を抜き打つようにして斬り上げた。岩塊は二つに割れた。まるで、刃物で分割された果物のような綺麗な切断面だった。
「―剣にも似た切れ味が現れるって寸法だ」
ギーツがドロスに向き直った。
「まあ、おまえのような悪党に対等な条件でやって勝つ、ってのも面白いかもな」
言うと、無造作にスティックをドロスに対して放った。
「ほらよ」
指先で押し出されたスティックは、ほとんど水平に空中に浮いた。あまりにも無造作だったために、顔見知りの人間に食べ物でも分け与えるかのような何気ない仕草に見えた。スティックが降下を始め、倒れたドロスの真上から落下した。
「―!」
ドロスが目を剥いた。手足をバタつかせて横に転がり、慌ててスティックの下方から抜け出した。
重い衝撃と落下音が地を震わせ、鈍い擦過音がした。
スティックは姿と同じ線を残して地面にめり込んでいた。深く地面に入り込み、本体は見えなかった。
「おーりょりょ」
わざとらしくギーツが驚きの声を発した。
「おまえのような力自慢は受け止めようとするかと思ったぜ。せっかく、千人分に増やしといたのによ。受け止め損ねて真っ二つになれば面白い見物だったろうに」
底意地の悪い笑みを浮かべるギーツの手には新たなスティックが現れていた。