2-8 光のナイフ
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「まずはアル、あなたからよ」
アルが頷く。
儀式自体はそれほど複雑なわけではなかった。互いの左手に相転儀を使って傷をつけ合い、血を混ぜ合わせるだけだ。
リアは手の平を上にして左手を祭壇の上に置いた。
「訊いてなかったけど、微妙なコントロールはできる?」
「それは大丈夫だけど…」
「? 何?」
「何でもない」
首を振るアルをリアは深く追及しなかった。
「やり過ぎないでね」
「う、うん」
アルは右手の人差し指を伸ばして見つめた。白い光の点が指先に生まれ、膜のように指全体を包み込む。光の集合はやがて細く鋭く形を変えた。光のナイフができ上がった。
「ホントにいいの?」
目を向けたアルが問う。
リアは笑みを消した。興が醒めていた。気遣いされていると知ってなお、くどい態度に気分を害した。
「いいから、やりなさい。儀式にならないでしょ?」
怒られたアルは哀しげな顔をして手を引いた。リアの手の平を見つめると恐る恐るといった態度で光のナイフを近づけた。
リアは渋い表情をして目を閉じた。
まったく。広間でも思ったけど、情けないなあ。魔族なんだから今までに一人や二人、ううん、十や二十刺したことあるでしょうに。
大げさでなく思った。特殊な能力を駆使する魔族は物心ついた頃から闘争と関わる。相手の血を流した経験のない同族をリアは知らなかった。
―っ!
目を閉じたまま、リアはかすかに眉根を寄せた。手の平に痛みを感じたためだった。静かに目を開ける。
右手を胸元に引き寄せたアルが見ていた。リアは左手を持ち上げて手の平を見つめた。
皮膚に白い筋が引かれているのが分かった。細いので見落としそうだ。血が出ていないのは傷が浅いせいだろう。
…どうしよう。やり直しは不吉だっていうし。
どうしたものかと思案していると筋から血が滲み出してきた。目的は達せられそうだった。