3-32 全て片づけたら
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「アルを助けたら、すぐ戻る」
「その必要には及びません」
「?」
「全て片づけたら後を追いますので」
ギーツが見たナヤカの横顔は、さも当然とでも言いたげに平静だった。再びギーツの口元に笑みが戻った。
「おまえと出会えて本当によかった」
「わたくしもです」
のろけにも似た言葉を交わし合った二人は、すぐに真顔になった。
「前方、包囲の厚い場所を敢えて抜ける。時間が惜しい」
「了解しました。援護はできません」
「上等っ!」
叫ぶのと同時にギーツは走り出した。徒手の姿は相手に出方を悟らせないためだった。
「?」
しかし、ギーツは訝しい表情で敵の間を抜ける羽目になった。行く手を阻むはずの人波が進行と同時に割れたのだ。側方に避けた人波はギーツを押し出すように後方に回った。
違和を感じたギーツが方向を転換しようとすると横の数人が攻撃に転じた。拳や足刀の攻撃を進行方向に向かいながら回避したギーツは予定通りアルの救出に向かった。走りながら敵の様子を伺うと含みのある笑いを浮かべて向こうもギーツを見ていた。
ギーツの胸を嫌な予感が埋めた。相手の意図が読めなかった。頭を軽く振ってギーツは迷いも共に振り捨てた。
待ってろよ、アル。
真っ直ぐにもう一つの館の跡へと向かった。