3-29 小者はアンタ
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
リアは吼えた。
吼えるのと同時に魔力を増大させた。自身の身体に魔力を行き渡らせ、デランの拘束に対抗した。眼下のヴァン・キ・ラーゴ二体への供給も増やして髪の毛を振り払おうとした。相成斑の拡大は熱気となってリアを包んだ。魔力の放出は周囲の空気さえも揺るがした。
あたしの魔力に焼かれて果てるがいいっ!
リアはデランの抹殺に燃えていた。
「無駄だ」
デランの声は遥か遠くからのように耳に届いた。
「人の髪は想像以上に頑丈だ。加えて、おれのは特別製。千切ることなど―」
デランの声は途中で止まった。得意げに語る目の前でヴァン・キ・ラーゴが拘束を打ち破っていた。
体躯を倍加させたヴァン・キ・ラーゴは、千切れ飛ぶ髪を置き去りにしてデランへと走った。デランの相転儀は膨張の圧力に抗しきれなかった。驚愕に声さえ失ったデランは剣で胸を貫かれて果てた。
デランの絶命とともにリアの拘束も解けた。落下するリアをもう一体のヴァン・キ・ラーゴが受け止めた。
ヴァン・キ・ラーゴの腕から地面に降りると、乱れた襟元を直しながらリアはデランに語りかけた。生命活動を止めたデランは目を見開き、驚愕の表情を張りつかせたままだ。
「…見ることのなかったものを見た時が最後だったわね」
リアは顔もおぼろげなデランの調制士を思った。たとえ呪いがなくとも後れを取ったとは思えない。それでも、命を奪われた女性種の呪いは確実にデランの力を殺いでいた。
「…小者はアンタ」
静かに言い置くと、リアは森の中へと駆けた。二体のヴァン・キ・ラーゴも後を追った。