3-14 ロドとノエラ
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
ゲフィラ・オルは牙竜族と呼ばれる魔獣の一種で、一つの大陸に数個体しか生息しない稀少種だった。同時に地上最凶、最大の獣として名が知られている。性質は獰猛で、動くものなら何でも食べる悪食でも有名だった。捕食の対象には人間も含まれる。魔界に住む獣に相応しく、魔力に対する耐性があり、狩りに出かけた魔族が逆に餌食になった事例にも事欠かない。その巨大な体躯を維持するために、天は三つの口を与えたという。アルが森を抜ける際、遭遇せずに済んで安堵した魔獣の一つだった。
当初の驚きが退潮し、視野を広げたアルの目は中央の首の上にいる二つの人影を捉えた。
一人は秀麗な姿をした胞奇子だった。黄色種の肌に黒い髪の毛をしていた。きれいにウェーブした髪を首筋まで伸ばし、右の耳を隠すようにして左から流している。長いまつげの下の瞳は濃い茶だ。長身を求法院の制服に包み、左腕を体の前で下方に伸ばして立っている。開かれた五指の先から紫色の光が伸びてゲフィラ・オルの頭につながっていた。
思念の糸!
アルは直感していた。求法院にいるはずのない獣と獣に跨る魔族の組み合わせは答えを導くために十分な要素だった。色と光は捉えた魔力を視神経が変換したものだ。操縦者の身を保持する綱代わりのようでもあった。
もう一人は横幅のある調制士だった。胞奇子よりもやや背が高い。髪の色は青みがかった銀で巻き毛だった。短めの髪を後ろで二つに縛っている。気弱そうな青い瞳とふっくらとした顔立ちは愛嬌があった。胞奇子の後ろに立ち、腕を腰に廻していた。胞奇子の思念の糸が豊満な胸や腰を幾重にも取り巻いた後でゲフィラ・オルの頭に刺さっていた。糸は固定の役目も果たしているようだった。
「いくぞ、ノエラ」
「ええ、ロド」
ロドと呼ばれた胞奇子が声をかけ、調制士ノエラが返事をした。ロドの瞳が鋭い光をたたえてアルを見た。
「アルカシャ・クルグ。恨みはないが、死んでもらう」
静かなる死の宣告が聞こえた瞬間、二つの首がアルを襲った。左右同時、角度を違えた攻撃は殺意に満ちていた。膨れ上がった狩猟本能の発露だった。