3-13 ゲフィラ・オルとの遭遇
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
アルが向かった場所は森の入り口から奥まった場所にあった。
森に入る前にギーツと会話した場所は複数存在する入り口の一つで、目的地に到る道筋も一つではなかった。森を斜めに横切る道を歩いたアルは距離を感じた。森は敷地の中にあるとはいえ、かなりの深さを有していた。
アルの前には残骸が広がっていた。
建物が在ったと思われる場所を草の生えた地面が取り囲んでいた。周辺は森を構成する木々が立ち並んでいる。この周辺には、確かに人の手の入った痕跡が残っていた。
…見事に壊れてるな。
特別、警戒心も持たずにアルは残骸に近づいた。残っているのは建物の土台の跡とわずかに残った壁、土台によって区切られている場所に落ちた破片ぐらいだ。破壊も徹底しているとすがすがしささえ感じる。かなりの年月の間、風雨に晒されたと思われる残骸は黒ずみ、表面に風食の跡が見受けられた。
…魔族の王になるって、こういうことなのかな?
この場であったかもしれない闘争に思いをはせていると異変は起こった。
背後で巨大な足音が響いた。重々しい足音は地面ごとアルの身体を大きく揺らした。
アルは体勢を崩した後、慌てて振り返った。
―!
巨大な影があった。
影は仰ぎ見ねばならぬほどの高さを有していた。求法院の建物にも劣らない巨大さだった。巨体は濁った緑灰色をした鈍く光るウロコに覆われていた。腹部で抉れた細い胴体を長く伸びた脚が支えている。鋭く交互に折れ曲がった関節は巨体にそぐわぬ俊敏さを示し、踵と長い三本の指の先には鉤爪が突き出ていた。鋭く空を切り、時に重く地を叩く絶え間ない音は長くしなやかな尾の蠢きのためだった。
見上げた視線の先には、三つの首と凶悪な光を湛えた双眸があった。突き出た口には鋭い牙が生え、根元で可動する三本の長い角を持つ左右の頭は長くうねる首の先についていた。太く短い棘を周囲に生やした中央の頭は二つの首の上で地面を冷たく見下ろしている。見ようによっては大きな瘤を持った双頭の巨獣のようでもあった。
ゲフィラ・オル!
影の正体を悟ったアルは衝撃に身を固めた。