3-6 求法院は動かない
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「あのお」
二人が話しているとアルが小さく手を挙げた。
「何だ? アル」
「ぼくはリアの提案も悪くないと思うんだけど…」
「おいおい、アル。女性種のリアがやると言ってるんだぞ? おまえもいいよな? ナヤカ」
声をかけられたナヤカは無言で頷いた。
少数派になったアルは驚きの声をあげた。方針は決まったようなものだった。
「そう落胆するなよ、アル。これはおれの勘だが、リアの提案通りにしても多分求法院は動かない」
「? どういうこと?」
「まさか、やっぱり求法院の陰謀だ、なんて言うんじゃないでしょうね? それはさっき、あなたが否定したことよ?」
「そうじゃない。ただ、ここに集った者の争いは王選びのプログラムに組み込まれているとおれは見る。つまり、この状況は求法院にとっては想定の内、ということだな。だから、訴えは受理したとしても調査はしないはずだ。おまえさんの襲撃事件もどこまで真剣に調べたか怪しいもんだ」
「黒幕はともかく、争いの存在は知っていて黙ってるってことね? 場合によっては黒幕も」
「そうだな」
「理由は?」
アルが訊いた。
「無論、王を選ぶためさ。魔王はおれたち魔族の頂点だぜ。陰謀の一つや二つ、いや、きっと数え切れないほどあるだろう。荒事だって避けては通れない。なら、自然発生したトラブルを放置しておけば、対処できる能力があるかどうか判定できるじゃないか。おれならそうする」
リアは眉間に皺を寄せた。自分も他人のことは言えないが、この男も結構陰険だ。