2-4 文礼員
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「さ、行くわよ」
リアは言うとアルの腕を掴んで引いた。アルが慌ててついて行く。
「あの男性種…、レガート? 彼って…」
「…後で説明するわ。今はとにかく一緒に来て」
頑ななリアの口調に阻まれ、アルはそれ以上追求しなかった。
ホールにつながる回廊は途中で扉で仕切られていた。大きめのガラスを採用した両開きの扉は向こう側が見渡せる。扉を開けて進むと吹き抜けになった通路が続いていた。上は回廊から連続する屋根がある。両側は翼棟裏手の庭園と広場だ。屋根を支える数本の支柱のある通路の向こうには同じように両開きの扉が待っていた。岩と大地を象った紋様のある扉の中に入ると本棟の回廊だった。二人はさらに奥へと進んだ。
しばらく歩くと廊下に面した窓口のある場所に着いた。
窓口の上には装飾文字で書かれた『文礼室』の表示があった。横には係員の出入りするためのドアがあり、窓口と同様典雅な装飾が施してあった。内部は複数の人間が机を並べる広い部屋だ。文礼員という呼称の求法院の運営に関わる人員の多くがここにいる。調制士として来訪して以来、リアも何度か足を運んだ場所だった。
妙に静かだ。リアが窓口を覗いても誰もいない。衝立があって奥の様子は分からなかった。
「?」
リアは怪訝な顔をした。いつもなら女性種の係員が常駐している場所だ。深夜でさえ人は座っていなくても受付はしてくれる。
窓口の脇に置いてある手提げ式の呼び鈴に目をやったところで、廊下を挟んだ向かいの扉が開いた。一人の文礼員が顔を出した。
「すみません」
リアが声をかけたのは若い文礼員だった。軽やかな金髪を肩まで伸ばした女性種だ。白いブラウスにリボンタイを締め、明るいグレーのベストを身につけている。下は同じ色で足首までの長さのあるフレアスカートだ。気ぜわしい様子が仕草や動作から見て取れた。
「何かご用ですか?」
ブラウスの袖を捲り上げた文礼員は息も乱れ気味だ。
「儀典堂を使わせていただきたいんですけど」
「儀典堂…ですか」
文礼員の歯切れが悪くなった。用件を伝えても口元に手をやって考え込んでいる。
「? 何か不都合でも?」
「あ、いえ、使っていただくのは構わないのですが、少々お待ちいただくことになります」
「この時期に使う人間がいるんですか?」
自分たちは問題にせずにリアは言った。