2-26 戦闘狂い
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
こいつ、『戦闘狂い』か!?
戦慄を覚えた。
戦闘狂いは、戦闘嗜癖症という魔族特有の病気の別名だった。闘いを好む魔族といえど、意味も無く闘いに挑むことはない。たとえどれほど些細な事柄であろうと理由が存在する。しかし、戦闘狂いの成す闘いに意味はなく、ただ闘いを欲するがゆえに闘い、相手を滅する。生存のための手段が目的にすり代わった倒錯者にして異常者、それが戦闘狂いだった。
相転儀の使用は精神や肉体の高揚をもたらす。内奥に眠る力を掌握し、自在に操れるようになると力そのものと化したかのような瞬間が訪れることがある。魔力を開発した者は誰もが味わう恍惚の境地だ。絶大な快感と言ってよかった。魔族は魔族であることが誇りであり、同時に快楽なのだった。戦闘狂いは、その快楽に捉われた者でもある。
戦闘狂いは性質上、長生きしない。性種を超えた戦闘志向は過大な危険を呼び込み、限度を超えた闘いへの没入が命を危うくするのだ。戦闘狂いの共通の性質は、彼我ともに生死には関心がないことだった。リアも見聞はあっても関わった経験はない。
とんでもないものを飼ってるわね、求法院も。
渋った思いでいるとアルの声がした。
「リアっ!」
見ると、アルが駆け出そうとしていた。足元には胞奇子が倒れている。戦闘は決着を見たようだった。背後で警護員が調制士を打ちのめし、アルに照準を合わせようとしていた。
「バカっ!」
リアの声に反応し、アルが光球で身を包む。左横から警護員の蹴りが炸裂した。光球は壁面に叩きつけられ、衝撃で破片が飛び散った。アルは光球のまま壁にめり込み、上から警護員の足に押さえつけられた。勝負はついていた。