2-14 良い方のようですから
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
ナヤカの声に耳を傾けながらリアは考えていた。
クランゼールの空姫などという異名を授かったナヤカは殺し過ぎた。いくら他人の死を貪って生きる魔族でも、度を外れた殺人者は疎まれる。話のような出来事があっても不思議ではなかった。
調制士に選ばれることは名誉なことだ。称号の獲得は同世代の中で抜きん出た存在として認められることを意味する。一つの世界の一握りなのだ。胞奇子からの要請は断る権利もあるし、互いに認めるパートナーを得られれば正に僥倖だ。うまくいけば世界の頂点に立てる。
それでもなお、調制士としての選出は忌避される場合も多かった。理由は様々だ。何よりも王選びへの参加がほとんど死と同義なのが大きい。三十人の枠は、限定を意味すると同時に絶対の義務でもある。リアのように望んで集う者もいる一方で、中には生贄のように差し出された女性種もいるはずだった。ナヤカもそれに近いかもしれない。
「どうして、そんなことをあたしに話すの?」
「あなたは、良い方のようですから」
「はあっ?」
リアは奇妙そうな表情をした。
「あたしの何が『良い方』なのよ?」
「アルが異名の由来を尋ねても、核心となる理由を話そうとはされませんでしたし、先ほどはわたくしを気遣ってついて来てくださいました」
「あれは、アルが相手じゃ話し甲斐がないからよ。ついて行ったのだって、どっちかと言うとアルの仕返しができると思ったからで…」
「それでもいいのです。結果として、助かりました」
「…ほとんど役に立たなかったけどね」
「そんなことはありません」