2-2 二つの髪飾り
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
回廊の終着点まで来ると、リアは唐突に足を止めた。
回廊はドーム状の屋根を持つ円形の空間につながっていた。胞奇子や調制士を集めて集会を開けそうな広さを持つホールだった。ホールは、アルたちがやってきた回廊の他に三つの回廊が接続していた。右には胞奇子の居住棟、左には調制士の居住棟、真向かい中央には本棟へ向かう回廊が伸びている。壁面には回廊と同様の飾り窓が並び、回廊と回廊の間の壁際に金属製のくずかごが置かれている。リアはその一つに近づくと片方だけになった髪飾りを静かに外した。
「えっと…、リーゼリアさん?」
腕を解放されたアルは立ち止まった理由が分からず、後姿に声をかけた。
リアは返事をしなかった。くずかこの傍らで立ち尽くしていたかと思うとスカートのポケットからもう一つの髪飾りを出して手の平の上に置いた。ポケットの髪飾りは広間での騒動の後、床の上に落ちていたものだ。アルの腕を取る前にリアが拾い上げていた。髪のほどけた姿でリアは身動きもせずに髪飾りを見つめていた。後ろでアルが逡巡している。
リアはくずかごの上で手の平を傾けた。二つの髪飾りは空中で別れてくずかごの中に消えていった。小さな硬い音が二つ聞こえた。
「行きましょ」
踵を返すとリアは再びアルの腕を取った。表情は声音と同じく硬かった。
「え? でも、髪飾りは?」
「あんなのが触ったものなんていらないわ。代わりなら、あるし」
アルの顔も見ずに返答をし、リアは本棟に向かって早足で歩いた。
「片方は違うんじゃ…」
「いいから。持ち主のあたしがいいって言ってるんだから、いいの。早く歩きなさい」
たしなめられてアルは黙った。リアは何も言わずに腕を引いた。
二人が気まずい雰囲気に包まれてホールを歩いていると一人の男性種が後ろから追ってきた。
レガート・ゼイルだった。
「リア!」
呼びかけられたリアは足を止めて静かに振り返った。アルもレガートを見る。
「『ここで別れましょう』って、どういう意味だ?」
レガートが広間でリアが投げかけた言葉を繰り返した。声には責めるような響きがあった。眉根を寄せた表情は苦悶にも似ていた。
「言葉通りよ。一緒にいるのはあたしが胞奇子を見つけるまでって話だった。あなたがそう言ったのよ」
無表情にリアは答えた。
リアの言葉は正しかった。求法院に一番乗りしたレガートは真っ先にリアを指名し、調制士となるよう願った。しかし、リアは受け入れず、やり取りの末に互いのパートナーが決まるまでは行動を共にする話がまとまったのだった。胞奇子を見つけ出すのが最終日までずれ込むとはリア自身思っていなかったし、土壇場で調制士と見定めていた女性種を失うレガートに対してはわずかに心が揺らいだ。それでもリアは言葉を取り消すつもりはなかった。進む道は決まり、リアの選んだ道にレガートの姿は最早なかった。