2-8 相成斑
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
ようやくの思いでリアは声を出した。声はしきりに喉に絡んだ。
「…あんた、いったい、何したの?」
「ご覧になった通りです」
首を振り向け、いつもの冷静な声でナヤカが言った。
「わたくしの相転儀はこの世界を構成するあらゆる存在を喰い削ります。人とて例外ではありません」
リアは口中に湧いた唾を飲み込んだ。ナヤカの行使した力に圧倒されていた。人が二人、跡形もなく消えた。しかも、相手は屈強な胞奇子と調制士だ。何よりも恐ろしかったのは、戦闘の間にナヤカの外見が変化しなかったことだった。
相成斑が現れていないのだ。相成斑は俗に魔相とも呼ばれ、魔族が強力な相転儀を使う際に体表に現れる紋様だった。顔や身体に浮き出る紋様に一つとして同じものはなく、色も形も様々だ。戦闘で魔相が出現しなかった事実は、ナヤカにとって人を消し去る程度の仕事は造作もないことを示していた。
「申し訳ございません、リア。相手の力量のせいでパワーを上げ過ぎました。本来なら、あなたの穿刺体は一部の破壊で済むはずでしたのに」
少しも悪いとは思っていないかのような口調でナヤカが詫びた。リアは、その落差に笑う余裕を取り戻した。
ゆとりのできた心は、ナヤカの異名についての気づきをもたらした。
空姫と呼ばれる理由は、性格や殺しの数だけじゃなかったのね…。
表情の無さや非情に思える行ないに加え、相転儀の性質もまた、ナヤカの異名の一部だった。