2-1 回廊
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「ねえ、どこへ行くの?」
アルは腕を掴まれて引きずられるようにして廊下を歩いていた。
「文礼室よ。当たり前でしょ?」
リアは振り返りもせずに答えた。足早な進み方も変えなかった。
「文礼室って?」
「この求法院の運営を行なっているところよ。各種のスタッフが常駐してるわ」
二人が歩いている場所は広間から奥へと進む回廊だった。ドロスが姿を消した場所でもあったが、遅れて入ったこともあってか誰もいなかった。
回廊は大広間と求法院の本棟をつなぐ役割をしていた。大広間同様に磨かれた石でできており、幅広で高さも人の大きさを優に超えていた。天井には細工を施した梁が、側面には梁とつながった柱と照明、飾り窓が連続している。飾り窓からは翼棟とその前の庭園が見えた。彼方には求法院を囲む城壁がある。アルとリアは飾り窓の並ぶ廊下を進み続けた。
「そこへ行ってどうするの?」
「盟約の儀の手続きをするに決まってるじゃない。儀式の意味ぐらいは把握してるでしょ?」
「う、うん」
盟約の儀は、胞奇子と調制士の誓いの儀式だ。口頭で交わした約束を明確にすると同時に互いの魔力を交換して心身を結びつける。単なる契約以上の、重大で、厳粛な行為だった。
「でも、ぼく、儀式があるってことぐらいしか知らないよ?」
「十分よ。どうせ、これから実際にやるんだから」
「だけど、着替えだってまだだし」
「そんなのは後でいいの。さ、急ぐわよ」
リアの歩調がさらに速くなった。アルはバランスを崩して小さく悲鳴をあげた。
「分かってると思うけど、今日は最終日なのよ? せっかく求法院に辿り着けて調制士だって見つけたのに、すごすご帰りたいの?」
プレッシャーをかけられてアルは黙った。表情を引き締めるとリアの速度に合わせて歩き始めた。二人は口をつぐんで廊下を進んだ。