1-13 退場
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
視線を交わす二人の背後でドロスが吼えた。
「オレ様をここから出しやがれっ!!」
「静かになさい、ドロス・ゴズン」
リアは檻の方向を向いて振り仰いだ。
「オレ様に命令すんじゃねえっ! 早くここから出しやがれ! まず、てめえからひねり潰してやる!」
「ひねり潰す? あたしを?」
ドロスの脅しにリアは不敵な笑みで応じた。
「できないことは言うべきじゃないわ、ドロス・ゴズン。それに、あなたが心配していた調制士は今、目の前で一人減った。できもしないことを言う暇があったら、早く調制士を探すべきだと思うけど? それとも二人一緒に相手をしてみる? あたしは構わないわよ?」
リアの指摘にドロスは言葉を詰まらせた。手順はどうあれ、アルとリアの約定は成立していた。胞奇子の危機には調制士が、調制士の危機には胞奇子が共に立ち向かう。ドロスの言葉の実行は一対二の対決を意味した。
表情を不規則に歪めながらドロスはしばらく視線を泳がせ、不服そうに言った。
「…何もしねえから、…ここから出して…くれ」
搾り出すような声だった。元々の野太さに怨念が加わり、さらに低く聞こえた。眉間の深い皺と引きつった口元に抑えきれない葛藤が見て取れた。凶暴な気配は消えていた。
リアはドロスの表情を伺い、真顔になると指を鳴らした。檻は瞬時に消失した。床に格子の開けた穴だけが残った。
「―」
「―」
ドロスとリアの視線が交錯した。
リアはドロスの暴走を想定して警戒を解いていなかった。ただ立った状態でいながらも、いつでも戦闘に入れるようにしていた。
だが、用心は必要なかったようだった。ドロスは重々しい動作で体を返すと出てきた方角へと歩き出した。途中で一度足を止めて振り返った他は格別変わった様子もなかった。巨大な体躯は、ドアを押し開くと足音を残して広間から消えた。
広間にざわめきが戻った。